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以前、私はある会社に勤めていました。
たぶん、名前を言えば分かると思います。えぇ、そうです。あの会社です。
CMもやって評判よく見せてますが、実際は違います。ネットは便利ですね。人のクチは閉ざせないと実感できますよ。あの会社の悪評がごろごろ転がって。
えぇ、分かってます。
私も同罪です。あの会社にいたのですから。
ターゲットはご老人でした。
あいつらは長い説明をすれば、こんがらがって理解できない。簡単なことを言えばすぐ乗っかるって。えぇ、分かってます。
ひどいですね?
えぇ、自分のことです。自覚してますよ。
でもね、これぐらいはまだ良い方です。
営業の訓練もさせられましたが、ひどいものでした。あの手この手でお客を騙し、会員にさせるんですが。はじめに言われたのは『カボチャと思え、ってのあるだろ。舞台に上がるときの。あれだよ、あれ』と言われたんです。
お客をカボチャと思え。そうすれば、ためらいなくやれるってことなんでしょうね。
はじめは不謹慎ながら冗談だと思い、笑ってしまいました。
えぇ、ひどいですね。
すいません、私はその一味でした。その通りです。あなたが軽蔑するのも無理はありません。ですが、私だって逃げたかったです。でも、当時はいい歳で再就職は厳しく、あそこに就けたのが奇跡なほどでして。
……あの人、笑わなかったんですよ。
あぁ、カボチャと言った人のことです。あの会社の教官みたいな人だったのですが。あの人、カボチャの発言のあと笑いませんでした。
それが、あとでじわじわ来ましたね。
あ、この会社、本当にお客を人間扱いしてないと。
苦笑まじりの笑いさえ起きないほどに。
かけらも罪悪感がない。
戦慄しました。
え?
だったら、なぜ辞めなかった、ですって。
だから言ったじゃないですか。
あのときは私、他の会社を辞めたばかりで。それもパワハラで、精神を傷つけられたのに損害賠償することもできず、頻繁に気持ち悪くなり嘔吐を繰り返しながらも、どうにか再就職できた場所だったんです。確かに、あとから見れば滑稽でしょうが。でも、しょうがないでしょ?
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