第1章

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 蒼ノ下さん、あなただって分からないですか。この気持ち、体がどん底で調子を整えようにも、整えるための金も危うく、そんなときに会社なんて選べますか? はっ、小説の人には分からないですかね。あなただって、小説だけで食ってるわけじゃないでしょ。そもそも、プロというのもおこがましい……いえ、何言ってるんだ私は。  すいません、すいませんでした。本当に申し訳ない。  最近、驚くようなことばかりが起こるものですから、気が動転してて、すいません。この通りです、お許しを。何てことを言ったのでしょうか私は  あぁ、許してください、どうか、この通りです。帰らないで。帰らないでください。  ちょっと待って!  お願いです。こんな話、あなた以外にしようがないんです。医者に相談しても、頭の薬を出されるぐらいでして、違うんです、私は狂ってない。ほんとにおかしなことが起こってるんだ。  そう、あの人達に起きたことのように。  ニュースでやっていましたよね。  あの会社のお偉い方全員が、謎の奇病になったって。今ごろになってマスコミは大騒ぎですよ。ようやく、重い腰を上げてあの会社がどんなひどいことをしてきたか暴露しました。  遅い、遅すぎる。  テレビなんて週刊紙の代理にもならない。しかも奴らはどんな病気かも具体的に言ってなかったですね。  ……あぁ、蒼ノ下さん。持ってたんですか、それ。  その週刊誌。  ふふっ、ここで答えてるのは私じゃないですよ。ですが、すべて事実が載ってます。ろくでもないでしょ。解約しようとした客を脅したり、ときには詐欺そのものな行為をしてまで顧客を獲得した。  いえ、ネットではすでにあちこちで話題になってましたけどね。  ほんと、今さらです。  私だってね、嫌だったんですよ?  良心が苦しみました。私の親も高齢でしてね。同じ年寄りをだまし、ときには脅しまでするんですから、そりゃ心が痛みますよ。あなた達の正論は正しいが、私だって人間なんです。それを分かってくださいよ。  ……あぁ、そうですか。  あなたのご両親も高齢ですか。  やめてください。そんな目で見ないでください。  いいじゃないですか、あなたはタダでこんな話が聞けるんだから。ふんっ、たまたま知り合いがつながってただけで、ラッキーな人でしょ。  逆に私はアンラッキーだ。
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