第1章

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 あんな会社、あんなとこだと分かっていれば入るつもりはなかった。ほんとですよ。え、さっきと言ってることが違う。何言ってるんですか。違いませんよ。  それに、私はもうあの会社の人間じゃない。  ほら、これならいいじゃないですか。とっくに私は辞めてるんだ。あんな会社。  でもね、何ででしょうね。世間はそう思ってくれない。この前も面接落とされてしまいました。ほら、あの会社の人だと分かるとね。ははっ、週刊誌ではこんな風に書かれてましたよね。ときには、涙する老婆を罵倒していたと。えぇ、あなたの目と同じです。みんな、あなたの目と同じ目で私を見ますね。おかしいな。袋で顔を隠してもこれだ。  でもね、蒼ノ下さん。  その目、私もしてたんですよ。そう、カボチャ。あなたも私も同罪だ。ははっ、何言ってるんだこいつ、という顔ですね。  私も、です。そう、カボチャ。  こいつは人間じゃない。  と思っていたから、何でもできた。  かわいそうな老人を騙したり脅したりも平気で出来ました。ははっ、そんな顔しないでください。あなた、黙ってると怖いですよ。目が笑わないんだもん。  でもね、その目。私と同じ。  あなたも、私を同じ人間だと思っていない。  他の人も私をそう見ている。  かわいそうな老人を平気で騙したり脅したり、そんな人間を人間だと感じることができない。当たり前ですよね。私も、あなたの立場ならそう感じます。そんな外道、人間であるはずがない。  えぇ、そうです。その通りです。  ……でもね、私も人間なんだ……なのに、どうしてこんなことになるんだ。  分かります?  もう今じゃ面接どころか外にだって出られない。どうして今日は私のアパートに呼んだか。  今私は、何でビニール袋なんか被ってるか。  いや、白い袋でも色がうっすらとのぞけるでしょ。  ははっ、あなたがここに来たとき、おもしろい表情してましたよ。最初は怖がっていたのに、あなたは私の話を聞くと私に怒りを覚えた。あなたはかわいい人だ。話に流されやすい。感情が移りやすいんですね。バカにしてませんよ。ただ、おめでたい人だなと感じました。  ……蒼ノ下さん。  やめてくださいよ、大きな声で。  どうして、叫ぶんですか。  近所迷惑でしょ?  もう、怖いなぁ。私の方が驚いてしまう。
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