第1章

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 ただ、袋を取っただけじゃないですか。どうしました、あなたホラー作品を書いてるんでしょ。それで本にも載ってるんですよね。ほら、目の前にホラーそのものがいるのに、どうして子供みたいに怯えるのですか。  カボチャ。  えぇ、そうです。私はカボチャになってしまいました。  目とクチだけ残して、頭が全部カボチャになってしまいましたね。ははっ、業務用スーパーでよくまとめ買いをしてましてね。近くにあるものですから。だから、大きな袋は手に入りやすいんですよ。ははっ、まさかカボチャ頭を隠すのに使うとは。あのときは考えもしなかったな。  蒼ノ下さん。  あなた、最初知り合いから私を教えてもらったとき、おもしろいと思ったでしょ。  あの会社にいた人から話が聞ける。しかも、今ものすごいことが起こってるって。  ははっ、そう。週刊誌にも書かれてましたよね。被害者が奇妙なことになってると。妙なものに変貌してしまったと。  ま、はっきり書くとオカルト雑誌になってしまうからボカしてましたけど。たぶん、あの人達も同じことになってるんですよ。あのお偉方も。そして死んだ。  ははっ、おかしいなぁ。私は途中で辞めたのになぁ。  何で、私までカボチャにならなくちゃ……。  ねぇ、ちょっと。  蒼ノ下さん。  帰らないでくださいよ、まだ聞きたいことあるんじゃないですか。え、もう時間だからって。まだ、そんな経ってないでしょ。  ほら、言ってたでしょ。エブリスタって投稿サイトで稲川淳二の賞があるって。それに作品を送りたいんですって。賞を取りたいって。  あははははっ、その顔!  ぜったい、ぜったい、私の話を投稿してくださいよ。ぜったいですよ。ぜったい。しなかったら呪いますからね。カボチャの呪いですよ。ははっ、眼球さえも緑になる私の呪い、どうなるか見ものですね。このまま、残り少ない人間の部分もカボチャですか。いいですね、しっかりと怪談を載せてくださいよ。  別に、どう脚色してもかまいません。でも、覚えていてください。私、私がいたことを。私が、呪われてこんな顔になったことを。  はははっ、そんな怪談で受賞したら、ほんと傑作ですね。あー、くそっ、呪われろ! 何が投稿だ、ばか野郎。帰りたいなら、出てけ。もう来るな!  ◆  えぇ。  どこまでがリアルでフィクションかは読者のご想像にお任せしますが。  ものすごい体験でした。
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