1.遅れた国々の忌々しき現状を顧みて

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1.遅れた国々の忌々しき現状を顧みて

 今は、2118年。  ツバサは、世界で最も平和な国と言われるジパングで生まれ育った。他国では、22世紀になっても未だに差別が日常的に行われ、凶悪犯罪が頻発している。統制の取れない国に住む人々が気の毒でならない。  家に帰ると、AIロボのタローが3Dでその日起こった世界のニュースを映し出してくれる。今日の特集では、男とも女とも見分けられないような人たちがプラカードを持ってデモをしていて、自分たちの権利を主張していた。なんだか21世紀の古い映像を見ているみたいだとツバサは思った。だいたいこういうデモは、SEU(南欧州連合)か南米で起こっている。ひと昔前にLGBTって呼ばれていた人たち。書籍などで読んで知ってはいるが、身近に見かけたことがない。どこにいるのだろうか?  彼は、インターネット・カレッジ時代に、LGBTに興味を持ち研究課題にしようと担当教授に相談したところ、我が国では彼らはひっそりと生きており、トータル・ネットワーク(嘗てのSNSが一つに統合された情報ネットシステム)の中で見つけてチャットするのは難しいと言われ、断念した経緯がある。  そこで彼は、SEUに留学して現地のLGBTたちに取材しようと試みたが、政府から渡航許可が下りなかった。研究内容が「我が国の発展に寄与しない」というのが主な理由だった。ジパングの国費留学制度は、国の発展、つまりテクノロジーの向上または人口増に繋がらない(つまり、生産性がない)研究テーマは採用されないケースが多い。もう一つ留学を拒否された理由が彼の年齢だった。ツバサは、その時、既に33歳になっていて、結婚の期限まであと2年となっていた。  21世紀の我が国では、結婚は義務化されていなかったらしい。「晩婚化」とか呼ばれる現象で皆なかなか結婚せず、結婚しないので子供の数もどんどん減っていったらしい。政府は、出生率を上昇させる苦肉の策として、出産・不妊治療の無償化を行ったが、それでも人口減少に歯止めはかからず、ついには、結婚の義務化に踏み切ったのだという。今では、女性30歳、男性35歳が結婚年齢期限となっており、それに違反すると罰則として健康保険の医療費負担率増や年金受給年齢の遅延などを課せられることになっている。相手がどうしても見つからない人は、エントリーさえすれば、AIで選んだ理想のカップルの合同結婚式に参加できたりする。
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