2人沈む夜の底に、一筋の光が射すとき

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基は何かを飲み込んだような顔して、ふいっと背を向けて教会を出ていった。 浅葱は軽く振った手を下ろして、ため息をついた。 がらんとした教会は、生徒たちの明るい声を吸い込んでしまったかのように夕方の光を帯びて静かな空気に戻っている。 ゆるゆると顔を上げて、祭壇のキリストを見上げた。 東京から戻ってもう2ヶ月。 5月も半ばを過ぎていた。 退院したと春から連絡があったのは、浅葱が病院で東堂と対峙して5日後のことだった。 浅葱はスマホをとりだして、メッセージアプリを起動した。 そこには春からのメッセージ文が記されている。 ーー退院した。必ず行くから。 いつ来るのか。 東堂とのことは大丈夫なのか。 おそらく病室に姿を見せているだろう、かのとはどうするのか。 他にも聞きたいことはたくさんあった。 あまりにあっさりした内容に聞きたいことを返信して重ねたけれど、その連絡以降、ふつりと連絡は途絶えた。 電話しても留守になってしまう。 一時期は不安が増して、夜も悶々として浅い眠りが続く日もあった。 なじりに東京に押しかけようかとさえ思った。 でも新学期の始まった生徒たちを中途半端に放り出して東京に行くわけにはいかなかった。     
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