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「思わなくては。誰よりも、自分がそう思わなくては。私が幸せになることは与えられた当然の権利よ。たった1人、あの人と幸せになることで、結果的には周りの誰かをも幸せにすることができるの。それが、私に与えられた特権でもあるのよ」
「どんなにひどいことをした人でも……?」
「はじめからひどいことをする人なんていないでしょう? それは途中で偶然に起きてしまった事故のようなもの。誰も幸せになるために生きるし、そのために必死で動き続けているのよ。ひどいことが起きたというなら、その途中に起きたことのためにも、人は誰しも幸せになるべきなの」
女性はそう言って、自分の夫の方を見つめた。
手荷物を預け終えたらしい女性の夫が浅葱たちの方にゆっくり歩いてくる。
どこか嬉しそうな柔和な表情で、手をあげて女性に合図した。
女性は杖にすがるようにして立ち上がった。
「その指輪を見るあなたの顔がとても幸せそうで……、ついこんなお年寄りがごめんなさいね」
「いえ、私の方こそお話が聞けて良かったです」
浅葱は女性を見あげて、笑みを浮かべた。
「指輪を受け取った時、そしてその指にはめた時の、その気持ちを信じて、大切になさいね」
女性の夫である男性が近づいてきて、静かに浅葱に頭を下げた。
そしておもむろに自分の腕を女性に差し出した。
女性は夫の腕に自分の腕を絡めると、ゆっくり歩き出した。
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