その昏い瞳が呼ぶもの

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その昏い瞳が呼ぶもの

ゴオオッと耳を貫く音とともに強い熱風が背中を押した。 人工的な緑と鈍い銀の色をした電車が、巻き上げられた髪で黒く染まった視界の中に猛スピードですべりこんでくる。 猛暑に灼かれた鉄の塊が浅葱の素肌をじりじりと焦がす。 視界の悪さに歩く速度が緩んで、髪を払おうと風が流れてくる方角に顔を向けた。 その時、まぶしい白シャツと濃紺のスラックスが視界に入った。 職業柄か、高校の制服にはつい目がいってしまう。 人の列に並ぶその制服は、都内でも5本指を争う高偏差値の公立高校のもの。 そして5月から浅葱が国語科の非常勤講師として勤務する先だ。 もしかしたら担当する授業の生徒になるかもしれない。 思わずその制服の持ち主の顔を確かめるように見た。 スクールバッグを肩にかけて、裾をまくりあげたスラックスのポケットに両手を突っ込み、イヤフォンで両耳とも塞いでいる。 袖まくりした腕はたいして日焼けもしておらず、筋肉はついていても全体的に華奢な印象を与える。 いわゆる、渋谷か原宿にでもいそうなイマドキの男子高校生。 でもその姿に、10代が無意識に発散する溌剌とした空気なんてものは1ミリもない。 ただ、ひどく物憂げなその横顔。
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