その昏い瞳が呼ぶもの

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彼自身に関わるものをすべて捨てたような虚しさと淋しさの欠片をわずかに口元に残して。 その彼の姿に、浅葱は凍りついた。 周りを行き過ぎる黒い影の一つが浅葱にぶつかって、軽い舌打ちが耳に届いた。 ハッと辺りを見回す。 ホームを、改札口へ電車の中へと流れていくたくさんの影が、浅葱を邪魔だと無遠慮な視線を投げていく。 慌てて身を縮めて、突破口を探しても出口はない。 炭酸の抜けたような音で車両のドアが閉まる。 その音に弾かれたように、浅葱はホームを急ぐ人の間を、彼の姿を求めて視線を動かした。 焦燥感とともに祈る気持ちであちこちを見回した時、視界の端を濃紺の色がよぎった。 電車の中。 探していた彼はドア脇に寄りかかって、こちらを見ることもなく、ゆっくり動き出した電車で運ばれていく。 どこかホッとした気持ちを抱えて、ホームから滑り出ていく電車を呆然と見送った。 “あの子”の淋しい最後の笑顔が蘇る。 電車が置き去った生ぬるい風が、髪を乱した。 寒い。 とても。 「浅葱!」 突然、現実に割り込むような声で呼ばれて振り向いた。 息を乱した男性が浅葱に駆け寄ってきた。 「大樹さん」 「もう驚かせるなよー。てっきりついてきてると思って振り返ったらいないからさ、びびった」 「……ごめんなさい」 「離れんなよ。フェアの時間に遅れる」
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