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「これから先に起こる諸々――この時代、この星に生き暮らしている人々の誰もが知らない秘密をお前に教えてやる。いうなれば、今世紀最大にして最強のタブーだ。つうか、このいいまわし格好よくね?」
「頭大丈夫か、おっさん」
「やめろ。ここで俺を怒らせるとお前はもれなく今世紀最悪の不幸に見舞われることになる」
「いいから、先進めよ」
「この野郎、聞いてビビんなよ」
まずは大まかな時代の変遷を説明してやった。バブル景気のこと。それがいきなり破綻すること。でもそれはリーマンショック後の景気に比べたらまだまだ緩いこと。パソコンやケータイが普及してビデオデッキやカセットテープが姿を消していくこと。日本航空の飛行機がこっからわりかし近いところに墜っこちること。民営化される国鉄や電電公社の株を買いこんでおけば、べらぼうに儲かること。昭和があと数年で終わること。アメリカが石油を持ってる国相手に戦争をやらかすが、日本がどっかと直接戦争することはないこと。代わりに気狂いじみた宗教団体が毒ガスを地下鉄にバラ撒くこと。馬鹿でかい地震が関西と東北と九州でそれぞれ起こること。カラオケボックスやネットカフェなんてものができること。サッカーが野球みたいにプロスポーツになること。ビーバップハイスクールみたいな不良はほとんど絶滅すること。大好きだったいかりや長介が俺がいた時代にはもういないこと。オグリキャップが強かったこと。ナリタブライアンも強かったこと。ディープインパクトはもっと強かったこと。キタサンブラックもそこに入れてやった。
「へえ。車は空飛んでないのか?」
「残念だがまだハトとカラスとスズメの天下だな、空は」
なんだ、といった顔をする旧時代の少年。こいつの未来リストにはきっと銀河鉄道もラインナップされていたにちがいない。
「思ったほど変わってねえのな。便利にはなるんだろうけど。あとオレ、競馬なんか興味ねえから」
「今は、だろ」
「この先も、だ」
「人間の中身ってのは世の中以上に変わっていくもんだぜ」
そして変化を遂げている途中でいつのまにか夢も希望も削られている――口にしかけた言葉を飲みこむ。
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