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「おっさんがいうなら、まあ、そうなのかもしんねえな」
「物分りがよくなってきたな。その調子だ」
少年がなにかを手渡してきた――南極ペンギンの絵が描かれたチューイングガム。口の中だけでも冷房を効かせようという魂胆。ガキのくせして気が利くじゃねえか、まったく。
「おっさん、将来のオレなんだろ。未来でなにやってんだよ」
「第二部はその話をしてやる。お前から俺に至る長いあれこれをな」
スペアミントの刺激が粘膜に作用してくるのを待って、それから俺はしゃべりはじめた。
鴇田親生のろくでもない半生――十五歳の沢村怜二がこれからトレースしていかなきゃならない時間のことを話して聞かせた。話の途中で俺が取ってきた行動に対しての抗議を何度か受けたが、そんなものはこっちとしても取り合いようがなく、んじゃ話すのやめるかと聞けば続けろといってくる。結局俺はこいつのために、喉を嗄らして三時間近くもしゃべり続けていた。
「オレも大したことねえな」
「なんだとてめえ」
「自分に向かって怒んなよ、おっさん」
決して涼しいわけじゃないが、こっちへやってきたばかりの頃に比べたら過ごしやすくはなってきている。
「だいたい勉強はしねえ、学校へは給食を食いに行くだけ。ほかにやってることっていったら、単車転がして女のケツを追っかけまわしてるだけじゃねえか。そんなやつが大成できるわけないだろう」
「そう思うんならやばいって気づいたときになんとかすりゃよかったじゃねえか」
「おいおい、若えの。俺が自分の甘さに気づいたのは二十歳かそこらのときだ。歳からいったってそっちのほうが近いだろう。強いてどっちかのせいにするんだったら、お前だ」
「馬鹿くせえ。こっちはまだ十五年しか生きてねえんだぞ。二十歳のオレがどうかなんてわかるわけねえじゃねえか。けどおっさんは知ってる。やっぱ馬鹿だろ、あんた」
「あんた呼ばわりに馬鹿呼ばわりか。何様だてめえ」
「あんま調子こいてっとマジで殺すぞ、おっさん」
「となりゃ、お前はあと三十四年しか生きられないって話になるな」
「関係ねえよ」
不毛な擦りつけ合いをする愚か人、二体。陽はとっくに落ちている。互いを罵る声に覆い被さってくる蛙の大合唱。じっとしていると蚊に食われるので、俺たちは歩くことにした――宵の口の田舎道を当て所なく。
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