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「銭は大事だぞ」
「命のほうが大事だろ! おっさん、いくつで死んだんだ!?」
「死んでねえ……と思うんだけどな。こっちへ来る前は四十九だった。どうしてこうなっちまったのかはわからねえ」
「思うってどういうことだよ。刺されたとか撃たれたとか、なんかそういう死んだ証拠みてえなもん、覚えてねえのか!?」
俺が答えずにいると、常夏の桃太郎は体を前後させながら頭を抱えた。死ぬのはやはり怖いようだ。
「なんちゃってー」
桃太郎の顔面筋肉が薄闇の中で複雑な動きをする。
「なんだよ! なんちゃってって」
「なんちゃってはなんちゃってだ」
「嘘かよ、借金で殺される話は!」
「誰も殺されたなんていってねえだろ。お前が悲惨な未来を勝手に思い描いただけじゃねえか」
「おっさん、マジ、ムカつくわ!」
「だけど命狙われんのは本当だぞ。実際、周りにいた運のねえ連中はスパンスパン消されてったからな」
「おっさんはなんでそうされなかったんだよ」
「その理由をお前が知る必要はねえよ」
「自分で考えろってことか。ずいぶん自分に冷てえんだな」
「冷てえかどうかはよく考えてみろ」
「考えたってしょうがねえよ。だいたいそんな未来なら、知らねえでいたほうがマシだったわ。今から気が重てえよ」
「お前馬鹿だねー。桃太郎の足もとにも及ばないな」
「なんだよ、桃太郎って!」
いって意味に気づいたのか、ピンク大将こと俺少年が下の段に向かって唾をする。
「ここまで話聞いといて、まだ殺されかけるつもりでいるのか?」
「そんなつもり一ミリもねえよ。ねえけどこのままいったら――」
「俺が殺されそうになった原因は銭だ。さっきもいったな」
俺少年が不機嫌顔で頷く。
「乱痴気騒ぎが終わる時期も教えた。覚えてっか?」
「平成三年」
「そうだ。だったら簡単な話じゃねえか」
「それが終わる前に手を打っておく」
即答の範疇に入る時間で俺少年が答えた。丸っきり働かない耳、というわけでもないらしい。
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