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「よお」
ピンクのボンタンジャージと、これまたどピンクのアロハをだらしなく着た、まさに馬鹿まっしぐらな少年に声をかける。
「あ? 誰だよ、おめえ」
「ああ、俺か。俺はお前だ」
「じゃあな」
「じゃあなじゃねえだろ! せっかく俺に会いにきてやってんのに」
「馬鹿相手にしてる暇ねんだよ。あんましつけえとやっちまうぞ、こら」
「やれるもんならやってみろ。自分が痛え思いする――痛っ! なにすんだてめえ! つうか俺っ!」
などとくっちゃべっている間に三発の蹴りと一発の拳が飛んできた――全部よけられなかった。老いとはこういうことなのか。ちっ、このクソガキには大人の喧嘩を教えてやる必要がある。
「バイト行かなきゃなんねえからよ。次、会ったらマジで殺すかんな、おっさん」
アロハの背中で極彩色のハイビスカスと椰子の木が常夏を謳歌している。こんなものを海の『う』の字もない田舎で着て歩いて、よくまあ恥ずかしくないもんだ。
「……ふっ、てめえに俺は殺れねえよ」
「んだと、こら」
少年が振り返る――やばい、またやられる。
「お、お前、ゴキブリ嫌いだよな!」
振りあげられた拳が高い位置で止まった。
「だったらなんだよ」
拳が顔面のさっきと同じ場所へ容赦なく振り下ろされる。止まったように見えたのは錯覚だった。これも老いか。やだなあ、もう。
「あんまり大人を――」
「あ?」
俺の顔面を打ち、鼻っ面へと流れてきた腕を逆手に取る。背中を使って投げ落とし、倒れたそいつの上へ勢いそのままのボディープレス。
「なめんなよ、小僧」
全体重をかけた肘で、おできのような喉仏を潰してやる――目を白黒させる少年。つうか昔の俺。その眼窩に親指を挿し入れた――といってもほんの少し。それでも未成年が恐怖を覚えるには充分な挿入具合。頬の引き攣りっぷりと必死な暴れっぷりに、俺のサディスティックが鎌首をもたげはじめる、と同時に、これってマゾヒズム込みじゃねえのか的自問自答。
「てめ、マジぶっ殺す!」
「だから無理だっていってんだろう」
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