5人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、これやるからさ。な、ほら、手え出せ」
野口先生を三枚、無理やりウンコ少年……もとい、ウンコ座りをしている俺少年の手に握らせる。
「こんな使えもしねえ札、もらったって意味ねえだろ」
「まあ、そういうな。何年かすれば使えるようになる」
「何年かって、いつだよ」
「二〇〇〇年より後ってことは確かだな」
「ふざけんなよ。あと十五年以上あるじゃねえか」
「しょうがねえだろう。俺がいた時代はお前、二千何年だったっけかな……とにかく二千十何年だったんだから」
「なんか怪しいよな、おっさん」
「あ? どう怪しいっつうんだよ」
「本当に元オレなのか?」
「『元』じゃねえよ、現役で俺だ。顔だって見てみろ。お前にそっくりじゃねえか」
「全然似てねえから。だいたいオレ、そんな汚くねえもの」
初対面、といっていいかどうかわからないが、今日初めて会った人間にここまで失礼な態度を普通は取れないだろう。もしかしたらこいつは俺じゃないかもしれない、と俺のほうが疑いたい気分になってきたが、どう見ても俺なのが悲しかった。
「おっさん、さっきからタイムスリップしてきたみてえなことばっかいってっけど、なんか証拠あんのかよ」
「証拠? そんなもん腐るほどある。んじゃあれだ。今こっちは何月だ? 暑いから夏は夏なんだろうが」
「八月」
「それじゃこの八月までの話を大まかにしてやる」
俺は物心がついてからの記憶を可能な限り詳しく、俺少年に話してやった。
§
「わかったよ。そこまで知ってるんじゃ信じるしかねえもんな。で、例えば……そうだな、オレが今考えてることなんかもわかんのか?」
「今の今はどうか知らねえけど……んじゃ、まず美咲と千秋の話でもするか」
少年の頬に赤みが差した。
「若えな、俺少年」
俺のにやつき顔とからかいに、少年が顔全体を赤らめる。
「あ!? なんだよ、それ。んなもんいいよ」
「お前が聞いてきたんじゃねえか」
「っせーよ。美咲と千秋がどうかしたのかよ」
「気になるか」
「そんないい方されたら誰だって気になんだろうが。早くいえよ、おっさん」
わかり易いことこの上ないガキだった。が、こいつは昔の俺。紛れもない俺のベーシック。そいつを思うと、こっちが辱めを受けているような気分にもなってくる。
最初のコメントを投稿しよう!