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「・・・俺に何かを頼むなら、もっと他に[俺が出来そうな事にしてくれ]。」
「じゃあ・・・[側に居てくれる?]」
「・・・・・・・・・。」
[蛇の生殺し]ってのは・・・[きっとこういう事を言う]んだろうな。
なんだか、一つ勉強になったような気がする。
「・・・・・・風雅?」
「とりあえず・・・雅は風呂から出て、服を着るぐらいは出来ねぇのか?」
「・・・何も見えないのに?」
よくよく話を聞いてみれば、雅の携帯は無理矢理着替えを持って来させた時に[充電という名の放置をした]らしく・・・[今現在、雅の手元には光源が一切ない]そうだ。
「・・・携帯、貸してやるから。その明かりで着替えぐらいは出来んだろ?風呂から出るの少し待て・・・扉の前に携帯置いとくから。」
「ん、分かった。頑張る。」
[何をどう頑張るんだよ?]
チャプンッと湯船に浸かる音を聞いて、俺は扉を開けると脱衣場にそっと携帯を置いた。
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ。」
「・・・おい、携帯置いたから出てもいいぞ?じゃあ・・・俺はリビングに戻ってるから・・・」
「無理無理無理無理!!ちょっと待って、風雅!!置いて行かないでよ!!」
[こっちが色々と無理]だ、バカ野郎。
某有名アニメの台詞をブツブツと呪文のように呟いていた雅が、ザバッ!!と風呂から勢いよく出る音がした。
と思ったら、今度はゴンッ!!と中から凄い音がした。
・・・慌てて出ようとして浴室のドアに頭ぶつけたな、アイツ。
少し静かになった浴室からカチャッと控えめな音が聞こえ、雅が風呂から出た事を告げた。
体を拭いたり、服を着替えたりする音が[静かな家の中ではとてもよく聞こえる]。
・・・・・・勘弁してくれよな、マジで。
ガンッ!!
廊下に座り込み、一人で悶々としている俺の目を覚ますかのように、雅がようやく脱衣場から出て来た・・・[脱衣場の扉を勢いよく開けて]。
「あっ・・・ごめん。まさか、そんな近くにいたなんて思わなかったから。」
「いや、俺も・・・[なんかごめん]。」
雅に対して邪な気持ちを抱いて。
・・・・・・でも、仕方ねぇよな?
男の本能というやつだ、これは。
[むしろ、これは雅が悪いと思う]んだよ、俺は。
「どしたの、風雅?」
「・・・なんでもねぇ。停電がいつ直るかも分かんねぇし・・・とりあえず、リビングに行っとこう。」
暗闇の中を歩き出そうとしたら、ガクンッと俺の体が後ろに引かれた。
後ろを振り向くと、俺の携帯の明かりで雅が俺の服の裾をギュッと握っている姿が目に入る。
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