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・○・○・
その日はサークルの人間関係にほとほとうんざりした帰りだった。
同期飲みと称して開かれたお座敷は、バドミントン・サークル所属の諸先輩方のこき下ろしが続いて荒れがちだった。
なんでも、美人の彼女がありながらして、うちの部長は私たちの同期の女子に二股をかけたらしい。そして、その責任が部長と同期女子どちらにあるかを争点に、水面下で学年ごとの対立があるんだとか。
渦中の女子はすでにサークルを辞めており、二人の間が今どうなっているのか、仔細を知る人はいないため、二股事件に尾ひれ背びれはつけ放題。うわさが金魚の形をしていたら、さぞ美しい姿で座敷を泳いだに違いない。
けれど、その事件はきっかけに過ぎず、多くの同期はもともと部長ととりまきの先輩方が気に食わなかったようだ。うちのサークルは只今絶賛険悪中、と知ったのが今日の飲み会唯一の収穫。
解散のときには愚痴を吐き出して幾分さっぱりした顔も多く、疲れているのは私を含めもっぱら聞き役だ。
同期のみんなと仲は良い方だけど、私はここの他に文芸部と紅茶同好会にも入っていたので、仲間内でそんな面倒なことになっているとは知らなかった。そしてとくに知りたくもなかった。
「やってらんないなあ」
トートバッグをぐるん、と一回転させる。
飲み会終わりの夜道は、一人になって清々しい気持ちと、さっきまであった騒がしさが懐かしい気持ち、それにアルコールも混じりなんとも言えない。
そんな気分に浸っていたとき。
〔こっちのせりふよ〕
つん、と澄ました 〔声〕がきこえた。
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