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〔夜目が効かないのに、こんな時間まで出歩くなんて〕
信じられない、と小馬鹿にする声。
何かが目の前をジャンプして、3メートルくらい先を走った。四つ足。鳥じゃない。あれは、
「ね…こ?さん?」
まだ怖くて、いや、パニックを起こしかけていたからだろうか。なぜかさん付けになる。
「え??待って、えっ、ちょっと、え?」
さっきの声は、この、猫が?
夜の一部から切り取られるように、その姿がだんだんと見えてきた。黒猫かと思ったけれど、お腹にすこし縞模様がついている。
向こうも目をまん丸に見開いて、びっくりしているように見える。
気のせいかな。気のせいよね。
〔ひょっとして わたしのお喋り 聴こえてるの?〕
猫が首を左に傾げて、ゆっくりと瞬きをする。
日本語を話しているわけではないようだった。人に比べると小さなその口は、それほど動いていない。
けれど、〔ことば〕は伝わる。
なぜかそのとき、これは夢でも、酔ってみている幻でもないと確信した。
〔人間なのよね?〕
こんなにうつくしい声を、たとえ夢でも私は生み出せないと思ったのだ。
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