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・○・○・
「そろそろ帰りますね」
〔なら送ってくわ〕
彼女はすっと立ち上がって私の前を歩きはじめた。普段言葉はきついのに、こういうところはやさしいよなあと、顔が見えないのをいいことににんまりする。
〔……なの?〕
「え、何ですか?」
〔だから、こんな夜まで起きてて、人間は平気なの?〕
「うーん、毎日会ってるわけじゃないですし、二限…あ、次の朝遅く起きていい日に来てるから、大丈夫です」
〔そう〕
「それに、ねこさんに会うと次の日めちゃめちゃ元気なんですよ、私」
〔ふーん。そぉなの〕
素っ気なく返されたけど、シッポがメトロノームの針のように大きく揺れた。
動画に収めたい気持ちをぐっと堪えて、夜の道を一緒に帰る。ここから10分くらい海沿いを歩くと私の家がある。
途中、海岸を寝ぐらにしている他の猫とすれ違った。
彼女の声がきこえるようになっても他の猫の声はいままで聞いたことがない。私が特別なのか、彼女が特別なのか。
尋ねれば
〔わたしに決まってるでしょ〕
とでも言うのだろうか。
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