8/8
前へ
/8ページ
次へ
〔ここだったわよね〕 家の前にお行儀よく座って、彼女は私を待っていた。 「当たりです」 次はいつ会えるのかな、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。 - 次の約束をしない。 猫っぽいな、と私はそれを尊重し、いつも実行しているが、「この次」が来るか来ないか分からない関係はかなりヒリヒリする。彼女は住所も、電話番号も持っていない。もちろんLINEも。 近くにいるようで、そうではない。平安貴族なら、別れ際和歌でも交わしたに違いない。 彼女はなんの未練もなさそうに、 でも、声はいっとう優しく 〔おやすみなさい〕 と告げた。 歌を詠むことのできない私は、せめてもの祈りをこめて 「またね」 と返した。 Fin.
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加