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〔ここだったわよね〕
家の前にお行儀よく座って、彼女は私を待っていた。
「当たりです」
次はいつ会えるのかな、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
- 次の約束をしない。
猫っぽいな、と私はそれを尊重し、いつも実行しているが、「この次」が来るか来ないか分からない関係はかなりヒリヒリする。彼女は住所も、電話番号も持っていない。もちろんLINEも。
近くにいるようで、そうではない。平安貴族なら、別れ際和歌でも交わしたに違いない。
彼女はなんの未練もなさそうに、
でも、声はいっとう優しく
〔おやすみなさい〕
と告げた。
歌を詠むことのできない私は、せめてもの祈りをこめて
「またね」
と返した。
Fin.
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