夏の日の思い出

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「ねえ、お兄ちゃん。ユキだよ。お兄ちゃんの忘れもの、届けに来たよ」 「あら、さっきの話の子じゃない。ナオユキ、出てあげなさいよ」 「嫌だよ。ドアを開けたら何が起こるかわかんないし」 僕が渋っていると、泣いている声がユキのいるであろう場所から聞こえてくる。 「お兄ちゃん、どうして開けてくれないの……。僕のこと、嫌いになったの……?」 「すまない、こちらにも事情があってだな」 「これだけ言っているんだ、開けてあげなさい」 「父さん! だから」 「開けろと言っているんだ。聞こえないのか」 もういい、そう言って立ち上がる父さんを、祖父母が止めようとする。 だが、父さんは2人の静止を振り切って、玄関まで歩みを進める。 「今開ける。そこで待っていなさい」 父さんが内側からカギを開けて扉をガラリと開けるが、そこには誰もいなかった。 「誰も、いない?」 「早く、早く閉めなさい!」 父さんは渋々といった感じで、扉を閉め、施錠した。
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