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「ここ、僕のお気に入りの場所なんだ」
そう言って僕を連れてきたのは、海辺の崖の上だった。
木が影を作り、風が吹き抜ける中で、僕たちは木の根に腰を下ろした。
「ここから見える夕日が、とてもキレイなんだ。ほら」
ユキが指さした方では、まさに夕日が海に呑まれようとしていた。
「ほらね、キレイでしょ」
碧に映る水面に、朱が差す。
朱はだんだんと呑み込まれていくが、それでも最後の最後まで輝き続けていた。
今まで、テレビでしか見る事の出来なかった光景だ。
「夏も悪くないな」
僕の声に、ユキは目を輝かせて大きくうなずく。
「出来たでしょ。いいこと」
そういうと、ユキは急に立ち上がり、悲しげな表情を浮かべる。
「だけどもう行かなくちゃ。夏、気に入ってもらってよかった」
彼はそのまま、僕を置いて崖の方へと向かっていく。
「ユキ、その先は」
彼の小さな体は、そのまま跡形もなく消えた。
「一体、何がどうなって――」
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