夏の日の思い出

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高台に向かって走っている間にすれ違った人たちにも、”ユキ”について話を聞いた。 だが誰も、そんな子は知らないと首を横に振った。 僕によく似た、あの少年。 彼は一体、誰なのだろうか。 高台に登り、自転車を停めて町を見下ろす。 彼は一体、どこに消えたのか。 これは憶測でしかないが、ユキはもう死んでいると思われる。 別れ際に急に消えたこと、そして――誰もユキのことを知らないことから考えて、だ。 この町には子どもが少ないから、どこの家にどんな子がいるかは把握されているだろう。 しかし、誰もユキの事は知らないと言った。 このことから、この世に存在しない、死人であると考えた方が自然なのだ。 だとすれば、ユキへの手掛かりは消えたも同然なのではないか。 僕は、はっと思い至った。 この町には図書館があったはず。 小さい町だ、古い新聞なども保管している可能性が高い。 そこに事件や事故が載っていたら、何かわかるかもしれない。 僕は自転車に乗ると、町唯一の図書館へと向かった。
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