社畜

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社畜

「ご覧頂いたのが新しい働き方です。」 ここはとあるセミナー会場。 お題には「新しい働き方」とある。映像のモデルは田中一郎だ。 受講者は皆世間からブラック企業とそしられる会社ばかり。 「こんな物 社員共をつけ上がらせる!」「わしらの頃は~」「余計な銭ばかりかかるでは無いか!!」 喧喧囂囂 口々に手前勝手な経営論が飛んでくる。 しかし講師は少しも動じず言葉を続ける。 「皆様の経営方針は誠に結構ですが あまりにもリスクが大きいのです。」 「現に皆様の会社では若者の離職が多く それすら認められなかった社員が苦しみ自殺者まで出ております。」 「その社員 遺族との問題は大げさに言えばお金で解決も出来ますが会社の失った信用と失われた命は決して戻ってきません。」 「うぐっ...」 講師の言葉に反論も無い社長達。しかし安心して下さいと講師がにこやかに笑い話を進める。 「あなた方が社畜だと考え飼い慣らしてると勘違いしている社員は躾のなってないか弱い野生動物なのです。故に文句も言うしそんなデリケートな生物を手荒く扱っては直ぐに死んでしまいます。」 「しかし少しの投資で野生動物は調教され強靭な労働力となります。悪い事は言いません。誰でもいいなど言わずしっかりとした若者を雇いましょう」 「特に高学歴が望ましい。豚や牛 家畜の全ては血統によって管理されその能力は保証されております。我々人間にとって学歴は血統書なのです。」 「皆様は酪農をご覧になったことが有りますでしょうか? 家畜達はキチンと面倒を見て餌を充分に与えれば自ずと成長しその身を我々に捧げてくれるのです。」 「この映像に出てくれた田中一郎君はこの上無き社畜の鏡!もう彼は働く以外の行動はありません!」 「滅私奉公 身を粉に働き 文句も言わない 自殺もしない。オマケに払った給料以上に働いてくれる。こんなにいい社畜はいませんよ!」 「「なるほどぉぉ!!」」 血統書の付いた家畜達は自分の運命を知らない。 ただ純粋に与えられた餌を頬張りその身を肥やす。 田中一郎にとって血統書は努力によって手にした学歴と職場 餌は仕事 牛豚の肉 鶏の卵に変わるのは会社の利益。 田中一郎は世の社畜を蔑みながら自らは社畜である事すら知らない。 田中一郎 彼はエリートだ。それも飛びっきりの「社畜」のエリート。 彼はそんな自分の肩書きも知らず今日も社畜としても任を全うする。 ~完~
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