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「雨が止むまで待つか……」
雨のせいであたりは少し暗くなっていたが、通り雨なようで別の方角を見ると、かなりの晴天だった。これなら、すぐに雨も止むだろう。
「冬夜、こんなところで何してるの?」
「……紅蓮」
紅蓮のことを考えていたら、本人に会えた。
それはそうだよな、家は違うとはいっても、帰り道は途中まで一緒だしな。
……ん? でも、待てよ。よくよく考えてみたら、なんで紅蓮がこんなところにいるんだ?
「俺は急に雨が降ってきたから、ここで雨が止むまで雨宿りしてるんだ。紅蓮こそ、どうしたんだ?」
「僕も冬夜と一緒。雨が降ってきたから雨宿り」
「お前でも、傘を忘れることがあるんだな」
俺は紅蓮に学校外で会えたのが嬉しかったのか、つい、紅蓮をからかってしまった。
好きな奴には意地悪をしたくなるという子供心というやつだ。
「冬夜、それはどういう意味?」
「常に完璧な会長様でもって意味だよ」
などという、会話をしていると、ふと、ある一組のカップルが目に入った。
「紅蓮、あれって……」
「……間違いなく、星が丘高校の生徒」
俺たちと同じ制服だったので、すぐに星が丘高校の生徒だとわかったし、腕を組んでいたから、付き合っているということもわかった。
普通の男女が腕を組んで歩くなんてこと、ありえない。だから、カップルなんだろう。
しかし、俺たちの学校は恋愛禁止。しかも、生徒会長である紅蓮は常に校則に忠実だ。
だから、この光景を見た今、明日には教師に話すだろうと思った。
だが、紅蓮の反応は違った。
「冬夜。あの二人は付き合ってるんだよね?」
「あ、あぁ……」
再確認を俺にしたかったのか、紅蓮はそう聞いた。
「すごく幸せそう……」
「……」
紅蓮はそのカップルを見て、そう呟いた。
自分も恋人が欲しい、恋人が出来たらあんなふうな幸せな日常を恋人と過ごしたいと言っているようにも聞こえた。
「そう、だな」
紅蓮の問いに返事を返したが、俺は違うことを考えていた。紅蓮には好きな人がいる。
その人のことが好きで、その人のことを今度は小説にするつもりだと言っていた。
俺はこのタイミングなら言えると思い、紅蓮に今まで感じていた疑問を聞いた。
「なぁ、紅蓮。お前は好きな人っているのか?」
「…………いる」
「そうか」
かなりの間が空いたが、それでも紅蓮は好きな人が「いる」と答えた。
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