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両親から「屋根に異常はなかった」という連絡をもらって、もう一度両親の家の画像を確認すると、不思議なことに男の姿は地図から消えていた。
週末、両親の元を訪ねた横部君が、駐在所にお礼を言いに行き、ネットで見た倒れていた男の話をすると、
「うーん、それってもしかして」
話を聞いていた警官が、一枚のポスターを横部君に見せてきた。それは七年も前に、そこから数十キロ離れた山で行方不明となっていた登山客の、捜索協力を依頼するものだった。その登山客の行方が分からなくなったときに着ていた服装が、オレンジ色のジャケットとカーキ色のパンツとリュックであったと、そこには記されていた。
「その男が助けを求めて、屋根を叩いていたってこと?」
私の問いに
「両親の家をリノベーションしたのは去年の話ですよ? 改装工事のときにはなんの異変もなかった。それに七年も前にいなくなった人が、なんで今ごろ数十キロも離れた両親の家の屋根に現れたんですか?」
横部君は気味悪そうに答えた。
あとから聞いた話では、男性が行方不明になった山には、古くから『天狗』に関する言い伝えが残っているのだという。天狗の怒りに触れてしまった男性が、命を奪われ飛ばされてしまったのか、若しくは山でひとり遭難し息絶えた男性を、天狗が哀れに思って人家へ送り届けてくれたのか。
そして今、男はどこにいるのか。
それ以来、天井から聴こえてきた異音は、ぴたりと止まった。
人の良い横部君のご両親は「我々が気付いてあげたことで、きっと成仏できたのだろう」と、遠くにそびえるその山を『天狗様の山』と呼んで、日々拝んでいるのだそうだ。
【了】
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