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踊るような旋律、かと思えば急に暗く沈んだメロディ。心を打つ音色をじわじわと染み込ませていると、いつの間にか広い平原に出たような穏やかな景色が立ちあがる。
彼の演奏にはいつも情景が浮かぶ。耳を傾けながら、私は旅をしているような気持ちになる。
何にも囚われない自由奔放な演奏を終え、余韻が切れると彼は静かにピアノを閉じた。そしてちらり、と私を見る。目が合って、視線だけで「どうぞ」と示してきた。
その仕草を見て、私も頷いて、音楽室の後方へ歩み寄った。
そして古びたアコースティックギターを携えて、彼の横の椅子へ腰かける。
軽くチューニングをするけれど、昨日も同じものを弾いたからほとんど必要ないほどだった。
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