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音楽室の時計
えんじ色の鍵盤カバーがのたりと持ち上がる。彼の表情が密かに輝く。私にしかきっとわからないくらいに。
夕方の音楽室には、世界と違う時間が流れているんじゃないかなぁ、と馬鹿げていることはわかっていても、いつもそう思う。
ふっと息を詰める声と共に、ピアノの音が部屋中に散らばった。毎度、はっとさせられる瞬間。
彼はただただ感情に任せ、楽しそうに鍵盤の上で指を自由気ままに躍らせる。
指の動きと連動して奏でられる音が、私の耳に絶え間なく入り込んでくる。
夕方、16時半。
偶然、いや、私としては奇跡と言いたいような幸運が重なり、私と彼はいつもこれくらいの時間に時間を共にする。
友達というわけでもない。
勿論恋人でもない。
恋愛感情だって正直一切無い。
ただ、この時間を、この場所で、この隠れた素晴らしいピアニストと共に過ごすことが至福だ。
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