捕まった理由

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 これは本来なら守秘義務違反に当たるんですけどね。  ちょっと警察関係者に知り合いがいまして、その方がオフレコで聞かせてくれた不思議な話です。  もちろん具多的な事件名は出せませんが、その方はある強姦殺人犯の取り調べを担当したことがありまして、その取り調べをしている中で、犯人が「刑事さん、俺はね、あの女の霊にはめられたんだよ」なんて、奇妙なことを言い始めたんだそうです。  その犯人の若い男は性犯罪の常習者でして、まあ褒められた人間じゃないんですが、その日の夜もいつもの手口として、利用客の多い電車に乗り込んで獲物を物色していたんだそうです。  すると、しばらくして一人の女性が男の目に留まりました。  どうやら仕事帰りのOLらしく、ストライプのダークスーツにタイトなミニスカートがよく似合う、長い黒髪の涼やかな眼をした美人ですよ。歳は20代半ばくらいでしょうか、もう完璧なまでに彼のタイプです。  一目見た瞬間、男はその夜のターゲットを彼女に決めたそうです。  それから彼女の降りる駅まで、少し離れた場所でこっそり監視しながらついて行き、彼女がその駅で降りると、やはり気づかれないよう距離をとって、男も一緒に降りて後をつけ始めました。  自慢にもなりませんが、こういうことには慣れたもんですよ。つかず離れず、一定のスピードで、ずっと同じ距離を保ったまま、男は気づかれることなく彼女を尾行していきます。  最初は電車から降りた乗客達でわらわらと混みあっていましたが、駅前の大通りから離れて行くんつれ、一人消え、二人消え…だんだんと周りに見えていた通行人達の姿は少なくなっていくんですね。  やがて、賑やかな大通りから脇道に逸れると、車も人もほとんど通らならない、暗くて静かぁな夜の街に辺りの景色は変わっていました。  静寂に包まれた夜の街に、カツーン、カツーン…と、ハイヒールの靴音を響かせて、男の前を彼女はもくもくと歩いていましたが、もう付近には彼女と男の二人しかいませんよ。  しばらくして振り返った彼女は、どうやら男がついてきていることに気づいたんでしょうね。不意に足を速めると、だんだんにそのスピードを上げ始めました。
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