しつけ

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「こんなお店で働けるなんて、本当に夢みたい」 梓が食器を棚に片付けながら言った。 「こんな小さな店で喜ぶなんて、欲がないですね」 俊介が鼻で笑うと、梓は「そんなことないですよ」と、大げさなほど鮮やかな笑みを浮かべて言う。 「小さいけど子どもの頃憧れたケーキ屋さんみたいで素敵だし、オーナーもかっこよくて素敵だし」 お世辞だろうな…と、思って聞いていた言葉に、振り返って梓を見ると、梓は顔を伏せながらも頬を染め、恥ずかしそうに口元に笑みを浮かべている。 冗談として受け止めるには問題がありそうだ。 「オーナーがかっこいいかどうかは分かりませんけど…いずれ自分で店を持つことを考えてみたらいいんじゃないですか?」 「そうですね…でも、私には無理ですよ。頭もよくないし、経営の事は分からないですし。私にできるのは料理を作るくらいで……」 「料理ができれば生きていけますよ。店も開けるし、結婚だってできるでしょう?あ…今のはセクハラかな?」 そう言うと、梓は目じりを下げてくしゃくしゃな笑みを浮かべる。
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