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唇をカップに触れると陶器に伝わった熱を感じる。コーヒーはまだ熱くて飲めたものではない。一口も飲まずに唇を離すと、一緒に運んできてくれたチョコレートの欠片に手を伸ばし、口の中へ放り込んだ。
作品というのは、ここ数年取り組んでいる趣味の話で、流行のWeb小説を書いているのだ。
たまたまコンビニで手に取った漫画の原作が、Web小説だったということで読むことを始めた。今まで小説を一冊も読み切ったことがなかったが、なぜだかそのまま、ずっぽり文字の魅力に惹きこまれてしまった。
子供のころからバトル漫画が好きだったため、漫画家にあこがれた時期があった。しかし、絵が全く描けなくて諦めていたのだ。だが、こういったWeb小説ならば、自分の考えた世界を表現できるのではないか? と考えたのが始まりだった。
浅い気持ちと勢いだけで書き始めた作品は、気がつけばランキング一位になっていたし、賞レースにからかい半分で出した短編小説が準大賞を受賞した。これまで自分の好きなように書き殴ってきただけで、作法など知らないのに、と、かなり驚いたことを憶えている。
そのときの審査員長は直木賞作家がつとめており、講評で『この作品が本になったら買う』と言われたときには、こいつ、俺のしっぽに火をつけやがったな、と憤った。
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