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……でも。そうしたら──。
声が大きくなる。
──支配される。
「浅田さん」
気が付くと、彼の目を見つめながら問いかけていた。彼の口許で、夜気を含んだ新しい火種が赤く燃える。
「……昼間のあの熱は、いったいどこに行ってしまうんでしょうね」
あの、足底を焦がすような熱。あの熱は、この砂の奥深くに吸収されて、今もそこにあるのだろうか。それとも、ここを離れてどこかに行ってしまうのだろうか。
「……広稀?」
──ならば、この熱は?
今、自分のなかに確かにある行き場のないこの熱も、やがてはどこかに行ってしまうのだろうか。行く夏と一緒に、花火の送り火に送られて消えていくのだろうか。
持て余すほどの、この想いも。
「……おい、広稀?」
浅田が自分の名を呼ぶ声を、どこか遠くから聞いているような感覚に襲われる。それを振り払おうと、広稀は慌てて言葉をつないだ。
──浅田さんには、知られたくない。
「……すみません。何でもないです。──さあ、さっさと続きをやっちゃいましょう。急げって言ったの、浅田さんじゃないですか。花火、湿気っちゃいますよ」
まだ訝しげに自分を見つめる浅田をけしかけるように、わざと大きな声で言う。
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