夏精霊(しょうりょう)

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 今、彼ともう一度視線を合わせたら、ふいにそこから自分の気持ちがこぼれ出してしまいそうで怖くて目が上げられない。そんな広稀の様子をほんのつかの間、探るような間合いを取ったあと、浅田が諦めたふうに小さくため息を吐く気配がした。 「──ああ、それなんだけど、実は少々困ったことになって」  言うと、バツが悪そうに、手のなかにあった緑色のライターを広稀の目の前にかざしてみせる。彼が謂わんとしていることは一目瞭然だった。 「……やっぱり。見事に使い切っちゃったわけですね。花火よりも火元の方を先に」  はからずも、先程の広稀の予想が的中したということだ。 「悪い。広稀が戻ってくるのを待っているあいだに、気が付いたら──」  そこで言葉を切って、今度は自分の足もとを示す。もみ消された無数の煙草の残骸と一緒に、最初見たときには封を切ったばかりだったはずの箱までもが、握りつぶされてまとめて置かれていた。 「……いったい何本吸ったんですか?」  戻ってくるのを待っていたと言っても、せいぜい二十分かそこらだろうに。  その間に掘ったものらしい、バスケットボールが半分埋まるくらいの穴に海水の入ったビニール袋をセットしつつ、背中越しにくぐもった声で浅田が応える。 「そこにある吸い殻の本数、数えてみて」  言いながら、簡易バケツと化した袋のなかに花火の燃え滓を投げ込んでいる。 「──その、まだ口許で揺れている煙の主も数に入れていいんですよね」
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