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その表情に、ふいに広稀のなかで何かがゆらりと揺らめいた。
持て余す、この熱。
──……浅田への想い。
「……なるほどね。じゃあ、俺も一本にしておこうかな」
つぶやいて、小さな花火を指先で一本だけつまむ。そうして、反対の指で煙草を挟むと、火の点いた先を広稀の方に向けた。
「──お先にどうぞ」
視線を合わせたまま、浅田が促す。その瞳から、何故か目を逸らすことができなかった。
同じように浅田の瞳を見つめ返しながら、広稀は言われた通りにつと、その火種に線香花火の穂先を近付ける。けれど、横から吹き付けてくる海風に頼りなくも脆い花火はいとも簡単に弄ばれ、なかなか焦点をしぼることができない。何より、それを持つおのれの指が、どうしようもないほどふるえていることを自覚せざるを得なかった。
──熱に侵される。
この身体のなかでくすぶっている行き場のない熱に。
煙草のように、花火のように、いつかは消えてなくなってしまうのだろうか。
本当に、消すことなんてできるのだろうか──。
──そのとき、ふるえる指先に浅田の長い指が絡まった。そして、しっかりとした強い力で、広稀の手を煙草の先端に導く。
しゅっというかすかな音を立てて、広稀の指先で花開いたひかりがふたりを照らす。しかし、ごく小さなその灯は、最後の実を結ぶことなく風に煽られてぽとりと地面に落ちた。同時に、ふたたび辺りを黒い闇が覆う。
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