夏精霊(しょうりょう)

17/20
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 花火の残骸を持ったまま、まだ小刻みにふるえる指先に、確かに感じる浅田の温度。そうして、わずかな沈黙のあと、彼がふいに口を開いた。 「……もう、十年くらい前になるかな。海で事故に遭ったことがあってね」  思いも寄らぬ言葉に、目の前にある浅田の瞳を覗き込む。──そのなかに、あの日確かに感じた熱があった。 「今はもうだいぶ平気になったけど、それでもまだきちんと意識しないと岸辺には近付けなくて。だから、さっきあんなことを言って、広稀に水を汲んできてもらったんだ」  そして、浅田もまた、広稀の目を真正面から見つめて告白を続ける。──彼の熱の正体を。その行く先を。  ……ずっと、知りたくないと思っていた。  知らなくてもいいと、自分に言い聞かせてきた。    浅田の熱に触れてしまうのが怖かった。  でも、今、この指先に絡まる浅田の指が、少しずつ怖れを取り除いていく。ふるえも、だんだんと治まってきていた。  ……今ならば、訊けるのかも知れない。  この指先に、今の彼の熱を感じることができるのならば。 「──そのとき、付き合っていた恋人を亡くしてね。俺だけが助かった。……大好きだったんだ。よくふたりでこうやって海辺で花火をやって。いつも彼女、さっき広稀が言ったのと同じことを言ってた。線香花火だけは、絶対に一本ずつじゃなきゃだめだって」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!