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そして、あとに残ったのは、今もこの身体のなかに確かに息づく自分の熱。
煙草のように、花火のように、簡単に消えてしまうものじゃない。まだ、消したくない。たとえ、いつかどこかへ行ってしまうものだとしても。
決して届かない、気持ちでも。
「……そろそろ帰りましょうか」
白い煙が空に溶けて消えていくのを見送ってから、広稀はそっと目の前の背中に問いかけた。けれど、何故かあるはずの返答がない。
「浅田さん? どうしたんですか?」
不思議に思って背後から顔を覗き込むと、浅田は、たった今自分が投げ込んだ即席バケツに浮かぶ煙草の吸い殻をじっと見下ろしていた。
「……ひょっとして、煙草がなくて口さびしいんですか?」
さっきまであんなに大量の煙草を吹かしていたのに、急になくなってしまったものだから、今ごろになって後悔しているのだろうか。
「浅田さ……って、うわ、何ですか? いきなり」
すると、ふいに浅田がその場に座り込んだ。──長い、長いため息と一緒に。
そして、そのため息が途切れると、彼の突然の行動が理解できずに首をかしげる広稀の顔を見上げて微笑みながらつぶやく。
「……よかった。ちゃんと、ここにいる」
「……当たり前でしょう。なに、わけの分からないこと言ってるんですか?」
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