夏精霊(しょうりょう)

20/20

63人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 まさか、これが噂に聞くニコチン中毒者の禁断症状というやつだろうか?  自然、浅田を見下ろす格好になりながら訊いてみる。これじゃあ、いつもと逆だ。  そんな広稀の問いかけに、浅田は口許の笑みを深くする。そのまま、そのひと言を噛みしめるように、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。 「いや──彼女みたいに、広稀までどこかに行ってしまわなくてよかったなと思って」  それは、明確な答えではなかったけれど、──その瞬間、広稀は彼の言葉に、自分の熱の行方を見たような気がした。 「──大丈夫ですよ。僕はここにいます」  浅田の瞳をしっかりと見つめながらそれだけを告げる。それは、身体のなかの熱が教えてくれた、広稀の答え。  このひとだけが知っている。──この熱の、行き着く先を。 「……帰ろうか」  向けられた笑顔に、広稀ははいと頷いた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加