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まさか、これが噂に聞くニコチン中毒者の禁断症状というやつだろうか?
自然、浅田を見下ろす格好になりながら訊いてみる。これじゃあ、いつもと逆だ。
そんな広稀の問いかけに、浅田は口許の笑みを深くする。そのまま、そのひと言を噛みしめるように、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
「いや──彼女みたいに、広稀までどこかに行ってしまわなくてよかったなと思って」
それは、明確な答えではなかったけれど、──その瞬間、広稀は彼の言葉に、自分の熱の行方を見たような気がした。
「──大丈夫ですよ。僕はここにいます」
浅田の瞳をしっかりと見つめながらそれだけを告げる。それは、身体のなかの熱が教えてくれた、広稀の答え。
このひとだけが知っている。──この熱の、行き着く先を。
「……帰ろうか」
向けられた笑顔に、広稀ははいと頷いた。
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