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だが、彼の嬉しそうな様子を見るにつけ、どうやらただ純粋に花火がやりたかっただけらしいと悟る。今だって、早くも花火セットの封を切り、どれにしようかと言わんばかりに色とりどりの中身を吟味している。
「やっぱり最初は景気がいいやつがいいよな。……よし、これにしよう。──なあ、広稀はどれにする?」
「……どれでもいいです」
呆れにも似た脱力感に、ついつい応える声もおざなりになる。
「何だよ、その気のない返事は。──あ、もしかして広稀、いまさらだけど花火嫌いだったりするひと?」
「いえ、別にそんなことはないですけど」
「ならやろう。ほら、これなんかどうだ? 『ひかりの色が三段階で変わります』だって。──ほれ、突っ立ってないで早くこっちに来てこれ持つ!」
仕方なく、言われるがままに浅田が選んでくれた花火を手にすると、その態度に満足そうに微笑んだ彼が、シャツのポケットから取り出したライターをこちらに向かってかざした。
「はい、火。──あ、しまった。オイルがもうあまりないかも」
さっきのコンビニで調達すべきだったなあ、と独り言つと、オイルの残量を確認するようにお気に入りの百円ライターを振ってみせる。花火のひかりを反射して、浅田の手のなかで緑が一瞬、鮮やかに燃えた。
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