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──喫煙家の浅田は、常に上着の内ポケットに、彼が愛飲している銘柄の煙草と緑色の百円ライターを入れている。一日に軽くひと箱は空ける愛煙家の彼ならば、ジッポーのようなものを使っている方が自然な気もしたが、浅田はふだんから使い捨てのライターを購入する。そして、その色は、いつも決まって緑だった。
もしかしたら彼なりのこだわりなり理由なりがあるのかと、一度、不思議に思って訊いてみたことがあるが、それに対する答えはひどくあっさりとしたものだった。
『──別に。ただ緑が好きなだけ』
拍子抜けするくらい単純明快なその回答は、しかし、何故か強く心に残った。
それ以来、広稀のなかでも緑という色は特別なものになった。そして、広稀にとって緑色は、同時に浅田のイメージにもなった。
──……あのころは、それがまだどういうことなのか分からなかった。
「うわ、まいったな。火、足りるといいけど」
そうぼやきながら、浅田が自らも花火に火を点けたあと、さらにはポケットから愛用の煙草の箱を取り出す。一本を銜えると、その先端にもライターの炎を移した。
「……今のつぶやきと行動が、著しく矛盾しているような気がするのは僕だけですか?」
燃え尽きて、白い煙を揺らめかせている花火を持て余したまま、広稀は呆れて目の前の愛煙家に問うてみる。
「それとこれとは別もの」
「こんな煙のなかで、さらに煙を吸う必然性がまったく理解できないんですけど」
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