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花火の白煙と浅田が吸う煙草の紫煙が混ざって、風下にいる広稀の目を直撃する。その不満を訴えたつもりだったのだが。
「言ってくれるね、未成年。では、そんなきみにひとつ大事なことを教えてあげよう。同じ煙は煙でもこっちは味が違うんだよ、味が」
さも満足げに煙草をくゆらせながら、きっぱりと見当違いのことを言い切る愛煙家に、これはどうやら何を言ってもむだなようだとため息を飲みこむ。そして、立つ位置をずらしてから新しい花火に手を伸ばすと、すぐさま横から伸びてきたライターが穂先にあえかなひかりを灯した。
「ほら、やっぱり炎が小さくなってる」
最後の悪あがきを試みると、それは思ったよりも相手にダメージを与えたようだった。
「……広稀くん、もしかして煙草を吸うオジサンは嫌い?」
「嫌いです」
先程の彼に負けないくらい、きっぱりと言い切ってやる。すると、浅田は大げさなほどその広い肩をがっくりと落としてみせた。
「……それはつらいな」
……いや、そんな堂々と煙草を銜えたまま言われても。
「ライター、貸してもらってもいいですか?」
そう言って次の花火を差し出す。そうして、新しく咲いたひかりの花を見つめながら、何気ない調子で妥協の言葉を紡いでやる。
「──うそですよ。別に嫌いじゃありません」
そのひと言に、浅田が素早く反応して顔を上げた。
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