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「では、そんなきみに先輩が名案を与えて進ぜよう。──はい、これに海水汲んできて。そうだな、あんまり多くても大変だから半分くらいね」
そう言って自称先輩が差し出したものは、何のことはない、先程まで花火が入っていたコンビニの袋だった。
「……これのどこが名案なんですか」
「お、生意気にも初心者が先輩に反抗するとはいい度胸だ。いいから、はい、頼んだぞ。ちょっと風も出てきたからなるはやで」
言われて初めて、先程ここへ来たときよりも肌に触れる風が強くなっていることに気付く。
「だからと言って、途中で切り上げるという選択肢はまったくないわけですか」
「だって湿気っちゃったらもったいないでしょ、花火」
ほら、と軽く手に押し付けるようにしてそれを広稀に委ねると、浅田はさっそく新しい煙草と花火に火を点ける。
「あ、まずい。本当にもうオイルがないかも」
……あのままじゃ、絶対に花火より先に火がなくなるな。
浅田のそんな独白を背にしながら、それでも言われた通りに岸辺まで歩いていき、ビニール袋に海水を半分ほど汲む。波は、先程と少しも変わらぬ調子で寄せ引きを繰り返しており、足もとでは、小石に弾かれたのか、さざ波が月明かりを映してきらきらと魚のように跳ねた。
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