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さっきまで感じていた心地よい感覚を思い出して、その音に少しだけ身を浸す。浅田は急いでと言っていたけれど、少しくらいなら構わないだろう──そこまで考えてからふと、何故彼が自分にこの役目を任せたのか、いまさらながら不思議に思えてきた。
考えてみれば、別にこの辺りの砂場に穴でも掘って、そこに花火を入れておけば事足りるはずだ。自称『海辺で花火の先輩』浅田がそれに気付かなかったわけがない。
……じゃあ、何で──?
そんな広稀の脳裏をある光景がかすめたのは、突然のことだった。
あの日、浅田と初めて出会ったとき、──もし会ったという言葉に語弊があるならば、部活動の早朝練習に向かう途中で偶然その場を通りかかった広稀が彼を見かけたとき、彼はひとりで朝の海を見つめていた。東雲の空の色を映した水平線の彼方を探るような、動かない瞳をしていた。
──そこに、彼はいったい何を見ていたのだろう。
答えは、今も訊けないままでいる。
もちろん、訊きたくないわけではない。むしろ、その欲求は、浅田を知れば知るほど広稀のなかで大きくなっていった。……それでも、あの日のことだけは、何故かどんなに親しくなっても口に出すことがためらわれた。
──あのとき、広稀は浅田のなかに熱を見たような気がしていた。そして、それが具体的に何であるかということに思い至ってからは、いっそうその問いが喉を通りにくくなっていた。
……たぶん、自分は答えを知るのが怖いのだと、今は分かる。
何故なら、自分のなかにもまた、同じ熱を見つけてしまったから。
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