嘘つき

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君は、昔から嘘つきだった。 人を困らせる嘘、幸せにさせる嘘 面白い嘘、イタズラするときの嘘。 自分を隠す嘘。 今日も彼女は嘘をつく。 「ねえ、今日化学テストだって」 「はいはい狼少女。これはなんの嘘?」 「ふふ、これはおはようの嘘」 高い位置で結んだポニーテールを軽やかに揺らしながら上機嫌に僕の隣を歩く彼女。 今日はそもそも化学の授業はない水曜日。 どうしてこんなにバレバレの嘘をつくのか、彼女の思考回路は理解し難い。 最寄りの駅を降りれば、僕たちと同じ制服の生徒達が物憂げそうに登校している。 ブレザーもベストも脱いで夏服に移行した七月。白を基調とした制服は見ているだけで涼しげで爽やかだ。 「暑いね」 「そりゃ七月だしね」 「テストが終わったら夏休みかあ」 彼女は開いた左手で自分を扇ぎながら呟いた。 彼女は小学校低学年のとき僕の住む町に引っ越してきた。それから高校まで縁あって一緒。 「夏休みは何するの?」 「勉強だよ。僕は受験生なんだ」 「‘僕は’って私も受験生だし!」 「ああ、そうだったね。君は大学に行けるの?」 「失礼ね! 学年で四十位以内には入ってるもん」 「嘘でしょ?」 「……」 分かりやすい嘘を指摘され、分かりやすく黙ってしまう彼女。 彼女は勉強があまり得意ではない。 中学のときなんて下から数えた方が早いくらいの順位。 「やればできるもん…」 少々不貞腐れた口調。そう‘やればできる’というのはいささか嘘ではない。 中学三年のとき彼女は見違えるほど熱心に勉強をしていた。 聞けば、行きたい高校がある、と。そこまで本気ならと僕も勉強を教えてあげたりしていた。 そして、蓋を開けば彼女は僕と同じ高校を受験していた。見事に二人揃って合格。後に一年のクラスまで同じと知ったときは流石に転校を考えたくらいだ。 「そういえば、なんでこの高校に入りたかったの?」 「え?なによいきなり」 「今思い出していたんだ。昔のことを」 「制服が可愛かったからよ」 「本当に不純な動機だな」 あのとき感銘を受けて勉強を教えていた僕の時間を返してほしい。 そんな僕の心情もお構い無しに彼女はへらへらと笑っている。 学校が見えてきた。今日も退屈な時間が始まる。 なのに、隣を歩く彼女の足取りは軽い。 まあ、彼女といる時間は悪くない。
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