4.最後の我儘

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「城田さんの病室は501号室ですよ」 「ありがとうございます」  僕はコンビニのレジ袋を下げ、病室を目指す。 「あ、奏多くん!」 「湊……っと旦那さんですよね、従兄妹の周防奏多です。この度はおめでとうございます」 「湊から話は聞いてます。色々とお世話になっていたみたいで」 「いえ、僕は何も……」  ベッドに座る湊の横につけられたベビーベッドの中に小さな生命(いのち)がすやすやと寝息を立て眠っていた。 「…………」  感無量というのはこういう事を言うのだと生まれて初めて知った。  感動しすぎて言葉が出てこない。 「なんで奏多くんが泣きそうなの?」  ケラケラと笑う湊に「だって……感動でしょ」と口を尖らせて抗議した。 「ありがとう。この子、女の子なんだ。“美波”ってつけてもいいかな?」 「……え?」  それは母さんの名前だ。  僕は思わず旦那さんの方を見た。 「奏多くんのお母さんの名前なんだよね。話は聞いてます。湊が不思議な夢を見たって言ってて」 「夢?」 「うん、私も伯母さんに会ったのは赤ちゃんの頃だったから覚えてないはずなんだけど……。夢に出てきてね、この子に生まれ変わるはずだったのよって」  僕は持っていたビニールの袋をグッと握りしめた。 「そっか……僕から湊にお願いがあるんだ。この子と……沢山一緒に遊んであげて。ずっと一緒にいてあげて」 「奏多くんに言われなくてもそうするよ。ご心配なく!」  僕は何度も頷いた。  僕はどこかでずっと寂しかったんだ。それはきっと、愛された記憶がなかったから。  けれど、あの夏の――不思議な真夜中の出来事を思い出せば、もう寂しくなどない。  今度、母さんの墓参りに行く時には孫とまでは言えないけれど、彼女くらいは紹介出来るようにしたいと思う。  僕はコンビニのレジ袋をそっとベッド脇の棚に置いた。  中身は、小さな美波へのプレゼント。 【了】
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