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1.皆既月食の夜
僕と彼女の出会いは唐突だった。
バイト帰り、夜中だというのに蒸し暑い空気の中月を眺めながら歩いていると、曲がり角から飛び出してきた彼女と出会い頭にぶつかるという、なんとも気恥しい出会い方をしたのだ。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、そっちこそ大丈夫だった?」
街頭の灯りが僕と彼女の姿を微かに照らす。
「大丈夫です」
「そりゃ良かった……ってこんな時間に女の子が歩いてちゃ危ないよ」
僕のバイト先はコンビニだ。
本当は朝の6時までのシフトなのだが、明日の朝から改装作業が始まるとかで営業は零時まで、その後は片付け作業を3時までやって上がってきた。
今は多分3時半になろうとしている頃だろう。
「あ……そうか。皆既月食」
もう一度、夜空を見上げると丁度月が欠け始めた所だった。
「これ見に来たの?」
辺りを見ると、近くのマンションのベランダに人がいるのがちらほら見えた。
「え、あ、そう! そうなの!」
僕の問い掛けに彼女は弾かれたようにそう答えた。
「そっか。暗いから気をつけて」
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