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3.遊ぼうよ
「全然覚えてない……でもそうか。切り傷は河原の葉っぱで、スニーカーの汚れもその時に付いたんだ」
人気の無い夜の公園のベンチに少し距離をとって並んで座り、昨夜の話を包み隠すに話した。
最初は怪訝な顔をしていた彼女も、僕が嘘を言っていないことがわかると、事実なのだとわかってくれたようだった。
「私が……夢遊病なのかもしれない……それなのにごめんなさい。しかも、本当に従兄妹だったなんて」
彼女はまだ自分を強く抱きしめている。
それはそうだ。自分が知らない間に知らない人間と時を過ごしたなんて想像しただけで恐怖でしかない。
「いや……聞いてくれてありがとう。記憶がないって怖いよな……」
彼女はこくりと頷いた。
「私ね、今妊娠してるの」
「え……結婚してたんだ」
「ううん。彼とは話し合い中なんだけど、産みたいなって。でも自分でも気づかないうちに不安とかストレスが溜まってるのかも……夢遊病になる理由はそれしか考えられない」
確かにあの時の湊は皆既月食を見て“新しく生まれ変わる象徴”だと言っていた。
過去を捨てるまでは行かなくても、現状が辛く、不安だからそう言ったのだろうか。
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