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4.最後の我儘
それから、僕と母さんはコンビニへ行って色んな遊び道具を買った。レジでバイト先の先輩に笑われたのは致し方ない。
折り紙、風船、シャボン玉、それに手持ち花火。
どれもこれも子どもの玩具だ。
それらを持って公園へ向かう。
「バイトの時間までだから、あと30分くらいだけど」
「うん。それまでいっぱい遊ぼう!」
折り鶴なんて折ったのは何年ぶりだろう。上手に折れない俺を見て「もう少し一緒にいられたら教えたのに」と笑った。
滑り台、ブランコでも無理させない程度に遊んだ。
シャボン玉は、ほぼ暗闇の中では見えなかったが、街頭の下にふわりと漂うシャボン玉は七色に輝き、酷く幻想的だった。
「最後は花火だね」
時間まであと5分。
僕たちは無言で花火の袋を開封した。
残り時間が少ないからと母さんが選んだのは、線香花火だった。
僕も同じものを手に取り、ふたりしゃがんで向かい合う。
手ともから垂らした線香花火の先端へライターで火をつけると、途端に直径5ミリ程の火球が出来た。
真夜中、ふたりきりの花火。
火球から弾けた火花に申し訳程度に照らされた彼女の表情は僕の知らない顔で、
「ありがとう……最後の我儘聞いてくれて」
なんて言うから、線香花火の火球が落ちる前に、僕は堪らずひと粒の涙を地面へ落とした。
「最後じゃないよ。また……会えるよね?」
僕の問い掛けに母さんは答えることなく「本当はね、あの日、この子に生まれ変わるつもりだったの」と言った。
この子。つまり、湊のお腹の子。
「だけど、どうしてもすぐに奏多に会いたくて……湊ちゃんの身体に入っちゃった」
まだ火花は弾け続けている。
「生まれる前の器に入らないと生まれ変わることは出来ないの。でもそれでもいい。こうして奏多と会えた。一緒に遊べたもの」
段々と小さくなっていく火花へ、僕は落ちるな、と心の中で叫び続けた。
「ごめんね、奏多。一緒にいられなくてごめんなさい……一緒にいたかった……」
母さんがそう目蓋を伏せた時、最後の灯火が闇へ溶けるように消えた。
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