後部座席

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彼から電話があったのはそれから3時間ほど経って、私が自宅に着いた頃でした。 「ごめんごめん、途中で盛り上がっちゃって、途中にあったホテルに入ったんだよ」と彼はいつものおちゃらけた調子で言いました。 「それはいいんだけどさ、運転してて何か変なことなかった?」と私は聞きました。 「・・・・実はさ、途中から彼女が具合悪くなっちゃたんだよ。急に寒い、寒いってなんもしゃべられくなっちゃって。だから、ホテル寄ったのに何もしてないのよ、ほんと休んだだけ。その後もずっと体調悪そうでさ。大丈夫かな?」 私は「罰が当たったんじゃないの?」と冗談っぽく言いましたが、寒気が止まりませんでした。 次の日、彼が車を返しに来たので、私はすぐに後部座席を確認しました。 一見すると、何の異変もなかったのですが、シートの隙間を探ると、指に何かが絡みつきました。 驚いて手を引くと、指には何本もの髪の毛が絡みついていました。 真っ黒で艶やかな、長い女の髪の毛が。 私と彼は無言で顔を見合わせました。 彼が帰った後、私はドライブレコーダーを再生しました。 実は、浮気の証拠をとろうと思って、運転中の音声を録音するように設定しておいたのです。 本当の浮気かどうか、車で何話してるか聞けばわかると思ったので。 しばらく彼と彼女のしょうもないカップルみたいなバカ話が続くのですが、ちょうど運転し始めてから30分くらいした時、ふいにその後輩の女の子の声がしなくなり、彼が何を問いかけても答えなくなりました。 その後、無言の時間が続き、たぶん森に入ったくらいの時間だと思うんですけど、急にザァー・・・ザァー・・・というノイズが交じり始めました。 それで、急に誰の声かわからない、人間の声とは思えないような、しゃがれ声が入ってたんです。 「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね・・・・」って呪文みたいにつぶやく声が。 私はそれからすぐにその車を売りに出しました。ドライブが趣味でしたが、しばらくはハンドルを握る気にすらなりませんでした。 彼は結局後輩の女の子とは深い関係にはならなかったようです。 その後輩の女の子はそれからしばらくして会社も辞めてしまったので、どうなっているのか、ちょっとわかりません。 その後、彼から浮ついた話を聞くこともなくなりました。
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