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「腕、離しくくれませんか。人呼びますよ」
「馬鹿に……バカにしやがって、このクソビッチがっ」
近所だからって油断していた。間隙をつかれた格好で人通りの少ない裏路地に連れ込まれてしまっていた。わたしの背後は行き止まりだし、いつも携帯していた防犯グッズも今は手元にない。
ここはもう叫ぶしかないな――わたしは思い切り息を吸い込んだ。その瞬間、
パァンッ!
わたしの顔が大きく弾け飛んだ。
一瞬「え?」と呆けて、自分の頬が熱くなるのを感じ、その後急激に痛みがやってきた。眼前の男に平手打ちをくらったのだと認識する。
頭の中が怒りで烈火の如く熱くなる。わたしのカワイイ顔になんてことするんだ、と。
怒髪天を衝いたわたしは思い切り殴り返してやろうと、つかまれていない右手を思い切り振りかぶり――振りかぶったはずだった。
そこでわたしは気付いた。
身体が硬直していて、指先すら動かせなかったことに。ぐつぐつと怒りにたぎる脳とは真逆に、身体はガタガタと震え、涙で溢れた瞳からそれが一滴こぼれた。
人に初めて殴られた衝撃だった。可愛い可愛いと褒められ続けていたその顔が、初めて侵犯された故の喪心だった。
「ふ、ふえぇぇ」
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