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わたしはそっと殻を破る。
おどおどと視線を上に上げると、困ったような怒ったような奇妙な表情で、まぁくんがこちらを見つめていた。
「まぁ、くん?」
「なんだかその愛称、久しぶりに聞いたな。大丈夫だったか、音々子。怪我は――あーひょっとして頬殴られたか? 少し赤くなってる」
わたしは自分の頬に手を当て軽く擦った。痛みはそんなになかった。でも、わたしの眼からはボロボロ、ボロボロと涙が零れ落ちる。
「結構痛む? このあと、病院へ行こう。音々子の可愛い顔に傷でも残ったら大変だしな」
焦ったようにオロオロしている彼を横目に、わたしは両手で顔を覆い、首を横に振る。
殴られた頬は痛くなかった。
今思えば、そんなに強い威力でなかったのかもしれない。痣だって残らないだろう。
でも、他の場所がとても痛かった。
さっきからズキズキ、ズキズキと胸が疼き、ドキドキ、ドキドキと心音が跳ね上がっていた。
わたしは、まぁくんの胸に飛び込んだ。
「わたしが可愛すぎるのが原因なのね。業が深いわ」
「また音々子はすぐそうやって……ま、無事でよかったけど」
少し頬が腫れたけど、わたしは可愛かった。
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