【始まり】

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右に並ぶ店を見て歩いていると、カフェで旅人が優雅に休憩してる。 3人パーティーか。いいな、楽しそうで……ん?楽しそうじゃないな。深刻な話か? まっ、みんな色々あるんだな。 視線を正面に戻し、左の樹に目が行った。 ……!逃げ道、見つけたかも。 僕は急いでカフェの3人の前に立ち、会釈した。 「はじめまして、エドワイズと申します。樹の貼り紙を見ました。勇者の募集、まだしてますか?」 3人は顔を見合せ、痩せた青年が話し出した。 「はい。貴方は勇者ですか?」 勇者………そうか、勇者じゃないと。 「春に学校を卒業したばかりで、仕事の経験がまだありません。」 痩せた青年は、駄目じゃない?という表情で2人を見た。 ガッチリ体型で強面(こわもて)の男性が「未経験なのは心配要素だが、安く雇えるんじゃないか?」と答え、隣の女性は「うーん……」と考え込んだ。 痩せた青年は僕を見て、訊ねてきた。 「あの、武器は何を使って戦うんですか?」 武ッ…武器!やっぱり戦うのか!?勇者は剣が定番か……いや、持ってないし。 「……素手です。」 ああ、終わったな。 「素手で戦うなんて、超人並みですよ!体つきも強そうだし!」 痩せた青年が話しかけると、2人も顔を寄せて、ヒソヒソと話し始めた。…全部聞こえてくるけど。 「強そう?…デブなだけじゃない?」 「面談に来た中には、武具を揃える資金をくれという奴もいたな。」 「素手なら武器を買うお金も掛かりませんね。」 面談で不合格になる訳に行かない。船乗りは嫌だ! 「あの、雇用費は要りません。」 ヒソヒソ… 「ただ!?それは助かりますね!」 「ただでも、戦えないただのデブだったら、足手まといになるだけよ?」 「駄目だったら、次の町で新たに勇者を募集すればいいんじゃないか?」 「……そうね。商談成立ってとこかしら?」 「では、そういうことで。エドワイズさん、よろしくお願いします。」 3人から詳しい説明を聞いて、早足で帰宅した。 そして、 父と母に、止まったら言えなくなるから、勢いに任せて伝えた。 母は驚き、父が僕に船の話をしてないことに更に驚いてる。 父は、少し残念そうな顔をしたけど、すぐに吹っ切るように「色々な経験を積むのも悪くない。腕っぷしが鍛えられるさ。」と笑顔で言った。
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