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そんなこと言われたら、一生懸命に勇気を出した俺のもやし魂が悲しんでしまうので、聞かなくて良かったなんて思いながら風紀委員室に入っていく。
「失礼しま〜す」
「おう、座れ。」
中にいたのはジンヤー先輩だけだった。
現在、中間考査期間で部活動はもちろん風紀委員は活動していない。
今日の事件もある程度落ち着いたので、他の風紀委員は授業に向かわせたのだろう。
俺はジンヤー先輩の向かいのソファに特に断りもなく座る。
事情聴取と言っても、風紀委員をやってると割と良くある事なので慣れている。
ジンヤー先輩も特にこれからどういう話をするかなど、説明する様子もなく話を進めていく。
「今回の件だが、国江と他生徒5名が揉めているところにお前が止めに入ったと聞いている。」
「まぁ……そうですね。」
事件の流れを共有し、認識は同じであるかの確認をとった。
これもいつもの流れなので、軽く返事をする。
ジンヤー先輩は書類から目を離し、俺を見てため息を漏らす。
「相手は5人。お前が使えるのは片腕だ。無理なら増援を呼べと教えたはずだが?」
「いやぁ、呼ぼうとしたらバレまして。」
「ったく、お前は……」
再びため息をつかれる。
なによ。俺だって好きでバレたんじゃないんだからね。
スマホの活きが良かっただけだもん。
「怪我は?治療したのは頬だけか。」
「そーです。ぶん殴られた僕の可愛い頬だけです。見ての通り治療しました。」
「こっち来てみろ。」
「?」
向かいのソファに座ったジンヤー先輩に手招きされたので、立ち上がる。
そんな当たり前みたいな顔で呼ばれても、ぶっちゃけやな予感しかしないが。
逆らう勇気もないので心ならずも近づいていく。
ジンヤー先輩は大人しく言う通りに移動した俺の方に、満足気な顔で身体を向き直した。
「服がひん剥かれていたが、未遂か。」
ジンヤー先輩は、服の上から怪我がないか確認するように俺の体を撫でていく。
おいおい、始まったよこのセクハラ魔王が。
「ひん剥かれて無いですけど、とりあえず未遂じゃなかったら流石にこんな冷静じゃないですね。」
服的にはボタン引きちぎられただけだし。
脱がされてないもん。
……というか、ジンヤー先輩の手がくすぐったい。
俺は痛いのも嫌だが、くすぐったいのはもっと嫌である。
やめてください、と言おうとしてジンヤー先輩の顔を見た瞬間。
ハッとした。
わかってしまった。この顔は……
「……く、」
「ん?どうした?そんな声を出して。」
クスリと笑う声が聞こえる。
俯いた俺の顔を意地の悪い顔で覗くジンヤー先輩。
意図を察してしまった俺は抵抗するが、必死の抵抗は虚しく。
まぁジンヤー先輩に力で勝てるはずもなく、簡単に抑え込まれてしまう。
その大きな手は胸から肩へとゆっくりと移動する。
「あ、う、ヤダ……!」
「嫌じゃないだろ?お前のせいだぞ。」
「っ……ちが、」
遂には俺の、
俺の左腕に……
「イデデデデ!!!!!!」
「包帯の上から触っただけでこれとは、相当痛めてるな。」
そう、元々怪我していた俺の左腕である。
跨られて押さえつけられた際に、強く抵抗してしまったため治りかけてたのが、ぶり返したのだ。
元々包帯してあるし、ほっとけば治るだろうと思って治療は受けないでいたのだが、目ざといこの先輩にはお見通しだったようだ。
だからって痛めつけなくていいじゃん!
「まったく、さっさとその腕も治療してこい。」
「アレ、事情聴取は?」
「国江から大体聞いた。もう必要ない。」
つまり俺はこのためだけに呼び出されたのか。
相変わらず、後輩思いなのか判断しづらい先輩である。
言いたいことは色々あったが、また身体を撫で回されても敵わないので、そそくさと部屋を出ることにする。
「相川」
ドアを開ける直前、ジンヤー先輩が声をかける。
俺は体の方向をそのままに、軽くふりかえった。
「俺は我慢したぞ。」
「はぁ……」
そういうと、再び書類に目を運ぶジンヤー先輩。
……よく意味がわからないが、これ以上俺に用はないとだろうと判断し部屋を出た。
「あれ」
「……どうも」
「く、国江くんどうしたの?」
部屋から出たら、国江くんが廊下に立っていた。
まるで待っててくれたみたいに……
「あんたを待ってました。」
「俺を待ってたの!?」
え!!?
国江くんが俺の事待ってたって聞こえたけど!?
真剣に耳を疑う。国江くんに嫌われすぎて、イマジナリー国江を生み出してしまったのではないか……?
しまった!!先輩風吹かせたすぎて、ついにイマジナリーに手を……!
なに?まさか、見直しましたみたいな、先輩憧れます的なことでも言ってくれるのっていうの!?
「あの」
「は、はい……」
イマジナリー国江くんは自身のカバンを漁り始める。
え、プレゼント!?憧れの先輩にプレゼントだって言うの!?イマジナリー国江くん!!!!
息を飲んでそれを見つめる俺。
すごくドキドキする……これが……恋!?
イマジナリー国江くんはカバンの中からソレを取り出し、俺の目の前に寄せる。
「勉強、教えてください。」
そう、教科書を……。
「……へ?」
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