6.中間考査

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そんなこと言われたら、一生懸命に勇気を出した俺のもやし魂が悲しんでしまうので、聞かなくて良かったなんて思いながら風紀委員室に入っていく。 「失礼しま〜す」 「おう、座れ。」 中にいたのはジンヤー先輩だけだった。 現在、中間考査期間で部活動はもちろん風紀委員は活動していない。 今日の事件もある程度落ち着いたので、他の風紀委員は授業に向かわせたのだろう。 俺はジンヤー先輩の向かいのソファに特に断りもなく座る。 事情聴取と言っても、風紀委員をやってると割と良くある事なので慣れている。 ジンヤー先輩も特にこれからどういう話をするかなど、説明する様子もなく話を進めていく。 「今回の件だが、国江と他生徒5名が揉めているところにお前が止めに入ったと聞いている。」 「まぁ……そうですね。」 事件の流れを共有し、認識は同じであるかの確認をとった。 これもいつもの流れなので、軽く返事をする。 ジンヤー先輩は書類から目を離し、俺を見てため息を漏らす。 「相手は5人。お前が使えるのは片腕だ。無理なら増援を呼べと教えたはずだが?」 「いやぁ、呼ぼうとしたらバレまして。」 「ったく、お前は……」 再びため息をつかれる。 なによ。俺だって好きでバレたんじゃないんだからね。 スマホの活きが良かっただけだもん。 「怪我は?治療したのは頬だけか。」 「そーです。ぶん殴られた僕の可愛い頬だけです。見ての通り治療しました。」 「こっち来てみろ。」 「?」 向かいのソファに座ったジンヤー先輩に手招きされたので、立ち上がる。 そんな当たり前みたいな顔で呼ばれても、ぶっちゃけやな予感しかしないが。 逆らう勇気もないので心ならずも近づいていく。 ジンヤー先輩は大人しく言う通りに移動した俺の方に、満足気な顔で身体を向き直した。 「服がひん剥かれていたが、未遂か。」 ジンヤー先輩は、服の上から怪我がないか確認するように俺の体を撫でていく。 おいおい、始まったよこのセクハラ魔王が。 「ひん剥かれて無いですけど、とりあえず未遂じゃなかったら流石にこんな冷静じゃないですね。」 服的にはボタン引きちぎられただけだし。 脱がされてないもん。 ……というか、ジンヤー先輩の手がくすぐったい。 俺は痛いのも嫌だが、くすぐったいのはもっと嫌である。 やめてください、と言おうとしてジンヤー先輩の顔を見た瞬間。 ハッとした。 わかってしまった。この顔は…… 「……く、」 「ん?どうした?そんな声を出して。」 クスリと笑う声が聞こえる。 俯いた俺の顔を意地の悪い顔で覗くジンヤー先輩。 意図を察してしまった俺は抵抗するが、必死の抵抗は虚しく。 まぁジンヤー先輩に力で勝てるはずもなく、簡単に抑え込まれてしまう。 その大きな手は胸から肩へとゆっくりと移動する。 「あ、う、ヤダ……!」 「嫌じゃないだろ?お前のせいだぞ。」 「っ……ちが、」 遂には俺の、 俺の左腕に…… 「イデデデデ!!!!!!」 「包帯の上から触っただけでこれとは、相当痛めてるな。」 そう、元々怪我していた俺の左腕である。 跨られて押さえつけられた際に、強く抵抗してしまったため治りかけてたのが、ぶり返したのだ。 元々包帯してあるし、ほっとけば治るだろうと思って治療は受けないでいたのだが、目ざといこの先輩にはお見通しだったようだ。 だからって痛めつけなくていいじゃん! 「まったく、さっさとその腕も治療してこい。」 「アレ、事情聴取は?」 「国江から大体聞いた。もう必要ない。」 つまり俺はこのためだけに呼び出されたのか。 相変わらず、後輩思いなのか判断しづらい先輩である。 言いたいことは色々あったが、また身体を撫で回されても敵わないので、そそくさと部屋を出ることにする。 「相川」 ドアを開ける直前、ジンヤー先輩が声をかける。 俺は体の方向をそのままに、軽くふりかえった。 「俺は我慢したぞ。」 「はぁ……」 そういうと、再び書類に目を運ぶジンヤー先輩。 ……よく意味がわからないが、これ以上俺に用はないとだろうと判断し部屋を出た。 「あれ」 「……どうも」 「く、国江くんどうしたの?」 部屋から出たら、国江くんが廊下に立っていた。 まるで待っててくれたみたいに…… 「あんたを待ってました。」 「俺を待ってたの!?」 え!!? 国江くんが俺の事待ってたって聞こえたけど!? 真剣に耳を疑う。国江くんに嫌われすぎて、イマジナリー国江を生み出してしまったのではないか……? しまった!!先輩風吹かせたすぎて、ついにイマジナリーに手を……! なに?まさか、見直しましたみたいな、先輩憧れます的なことでも言ってくれるのっていうの!? 「あの」 「は、はい……」 イマジナリー国江くんは自身のカバンを漁り始める。 え、プレゼント!?憧れの先輩にプレゼントだって言うの!?イマジナリー国江くん!!!! 息を飲んでそれを見つめる俺。 すごくドキドキする……これが……恋!? イマジナリー国江くんはカバンの中からソレを取り出し、俺の目の前に寄せる。 「勉強、教えてください。」 そう、教科書を……。 「……へ?」
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